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■ 2005年3月 日本薬学会報告
熊本大学医学部附属病院薬剤部 佐伯英康

 平成17年3月29日〜31日,東京ビッグサイトにて開催されました日本薬学会第125年会に参加させていただきました。 特筆すべきは,薬学教育に関連する発表が多かったことです。
本稿では,薬学教育に関連した発表および糖尿病療法研究会による発表に関連した発表から得られた知見をご報告い たします。

【薬学教育について】
 薬学教育におきましては,シンポジウムにおいて冒頭,6年制という教育改革は,日本において誰も経験したことの ないまさに“未知との遭遇”であると述べられ,一般社会の立場(日経BP社医療局編集委員),創薬研究の立場(日本 薬学会医薬化学部会会長),医学教育の立場(日本医学教育学会会長)それぞれの立場から報告・発表があり,薬学教 育が6年制に移行した場合のカリキュラムに関する議論について,進展度が紹介されました。これに対し,「関連する改 正法が施行される平成18年4月からの12年間については,4(学部)+2(修士課程)年の課程を修めた者に対しても国家 試験受験資格を認めるという経過措置の延長はあり得ないのか?」といった,未だに6年制反対を主張する意見があった ことや,一般の立場からの発表の中で,「医師においては,医学部附属病院における教育が,教育と現場(臨床)の掛け 橋を担ってきたが,薬学部には附属薬局が(現在では一部、設置されているものの)なかったことが教育と現場の乖離( 教育に対する無責任さ)を招いたのではないか?」との意見がだされたことが印象的でした。
 導入が予定されている共用試験に関連して,医学教育で既に活用されているコンピュータ支援基礎学力試験(CBT) および客観的臨床能力試験(OSCE)が盛り込まれること,テキストとしてスタンダード薬学シリーズ(日本薬学会編, 東京化学同人)が紹介されました。
CBTについては,受験者一人一人で試験問題が異なるため,隣席者による不正行為(カンニング)対策になる点,いつでも 実施できるe-learningとしても応用可能である点などが示されました。OSCEについては,系統的,定量的評価法であるこ とが示され,具体的評価手順について事例を通して紹介されました。評価項目はすべて実務に関するものであることが紹 介され,現場の薬剤師からも実務実習受け入れ方法について,具体的な質疑がありました。
また,ワークショップ,ポスター発表においても関連した報告があり,文部科学省の特色ある大学教育支援プログラムに 採択されている名城大学薬学部・薬学研究科より(@) 自己学習型のPBL(Problem Based Learning)チュートリアル教育 (A) コミュニケーションスキル教育 (B) 1年3ヶ月におよぶ本格的な臨床研修(臨床現場での実務教育)について報告 されました。特に,PBLチュートリアル教育におけるチューターの役割について,与えられたテーマに学習者が自発的に 考察するための介入法について質疑が多く寄せられ,薬学教育における具体的方策の一例として関心の高さを象徴してい ました。

【糖尿病領域について】
 糖尿病領域に関する発表につきましては,他職種と合同で作成したパンフレットを利用した患者教育,院外保険薬局と 情報を共有する為の服薬指導情報提供書活用例の報告など実際の患者指導に関する報告も多く見られました。これらに共 通して問題視されていたのが,糖尿病患者における継続的管理目標の達成であり,その実践のためには,施設内外(病棟 ―院内薬局―院外薬局)の連携が重要であることを考えさせられました。また,病棟の新人看護師に対する病院薬剤部が 行う教育システムにおいて,関心が多く且つ分かりにくいとして質疑が多く寄せられるのが,(インスリン製剤を含めた) 糖尿病用薬についてであることが示された報告があり,院内薬局から病棟スタッフへの情報提供の重要性を再認識させら れました。
 糖尿病療法研究会からは,現在までの活動状況とその評価について報告させていただきました。
当研究会におきましては,入退院を繰り返す糖尿病患者の特徴を考慮し,薬薬連携を強化するという点からも今年度より 認定薬剤師制度を発足させます。本制度がこの領域における指導薬剤師の育成に促進的に働き、糖尿病療養指導の質的確 保を図り,ひいては糖尿病患者の継続的管理目標の達成に有効に作用すればと考えております。また,病棟スタッフに対 する情報提供に関連して,糖尿病用薬の使用上の注意点に関するポスターの作製,当研究会スタッフが所属する各施設に おけるクリニカルパス(糖尿病教育入院など)の現状について検証・評価することなどをスタッフ内のカンファレンスで とりあげたいと考えております。

 今回の学会に参加して、当研究会の活動(の展望)として、糖尿病関連領域においても 現場の薬剤師のみならず、薬学生(大学関係者)との合同で療養指導の実際について議論できる場を設ける必要があるの ではないかと、考えさせられました。